BACK TO HOME

第295回 IL BALLETTO DI BRONZO "YS"

IL BALLETTO DI BRONZO - "YS"
1972 ITALY-POLYDOR 2443 003
(Progressive Rock)

RARE:★★★★★★★

Member :

Vito Manzari(b), Gianchi Stringa(ds), Lino Ajello(g),
Gianni Leone(vo,key)


Side (A)
1. Introduzione
2. Primo, Incontro


Side (B)
1. Secondo Incontro
2. Terzo Incontro
3. Epilogo



徹頭徹尾60年代ハード・ロック調のデビュー・アルバムから一転、 彼らはとんでもない作品を世に送り出します。

『YS』と書いて、『イプシロン・エッセ』と読むこの2ndアルバムは、 一見フツウのジャケットからは想像できない世界が広がります。 本当に2年前の1stとメンバーおなじかよ?と聞きたくなる位、別の音に なっています。

人から『どんな感じ?』と聞かれれば、大方のアルバムなら、それなりに 説明ができるものなのですが、このアルバムはそれを許さず、『好き?』 という質問にすら明確な返事ができず、『なんか凄い』で片付けてきた 一枚です。今回は敢えてその『なんか凄い』感じのご紹介となります。

耽美なイントロ、邪悪なハモンド、淫靡なスキャットと、そんな スキャットとは対照的に伸びやかなヴォーカル、超複雑なリズム・セク ションにヘヴィーなギター、そして難解な曲構成、と説明の言葉を並べれ ば並べるほど、混乱しそうな、要するに一筋縄ではいかない作品で、 個々には「ピアノがかっこいい」とか「ドラムスが超絶」とも言われ、 そういう意味ではチェルヴェッロの『メロス(Melos)』的です。

チェルヴェッロ(CERVELLO)の他にも、オザンナ(OSANNA)セミラミス (SEMIRAMIS)に代表される、クセの強いイタリアン・プログレは、一度 聴いただけで好きになる事は少ないと思われ、聴きこんでいくうちに、 じわじわとその独特感に近づきハマっていくか、逆に全く受け付ける事 すらできないかのどちらかに分かれていくと言われていますが、この アルバムはその典型で、複雑極まりない深い深い一枚ですね。

何か奥の闇の彼方に深いものがありそうな気がするのに、見つけるまでの 道のりが遠くて、イヤになって降りてしまうのか、そこを我慢して挑戦 し続けるのか、いつまでたっても決めかねている、そんな感じなのです。

30回や40回、いやそれ以上に聴いたって(大袈裟ですか?)理解できない といっても過言ではない内容は、安易なプログレ・ファンは全く寄せ付け ない孤高の名盤と言ってしまってもいいのではないでしょうか。

ひとつ、ハッキリ言えるのは、前衛的なお芝居や映画を観終わった時に 感じる、普段使う事のない脳の部分を動かしてみたかのような、不思議な迷宮的快感が心地よく余韻として残ります。だからこそ、もう一度、理解してみようと挑戦してしまうのかもしれません。

誰かと一緒の時に、これを聴くのには躊躇がありますが、一人で留守番 なんかしていると、無性に聴きいてみたくなる瞬間があります。 できれば、シーンとした真夜中の静寂の中、近所迷惑にならないように ヘッド・フォンで聴くのがいいですね。(意外と小心モノです。) その時、身体からは、きっとアルファ波ではない何か不思議な振動が 出ているに違ありません。

普段とは違う琴線に触れてくる感触を楽しめる一枚だと思います。


(2009.04.30)