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第167回 HUMBLE PIE "Thunderbox"

HUMBLE PIE - "Thunderbox"
1975 UK A&M AMLH63611
(Hard Rock)

RARE:★★

Member : 

Steve Marriott(vo,g), Greg Ridley(b,vo),
Clem Clempson(g,vo), Jerry Shirley(ds)


Side (A)
1. Thunderbox
2. Groovin' With Jesus
3. I Can't Stand The Rain
4. Anna (Go To Him)
5. No Way
6. Rally With Ali


Side (B)
1. Don't Worry, Be Happy
2. Ninety-Nine Pounds

3. Every Single Day
4. No Money Down
5. Drift Away
6. Oh La-De-Da


ハンブル・パイHUMBLE PIE)というとピーター・フランプトン(Peter Frampton)在籍時の初期と白人ソウルまっしぐらの中期に人気が集中していますが、後期作品の中でもこのアルバムは絶対に外しては いけない一枚です。

毎日のように『エアチェック』(今では死語か)をしていたのがFM愛知で平日の夕方5時からの洋楽番組(多分DJは柴田チコ)の『オールデイズ』のコーナーなんですが、ここで取り上げてくれた『ハンブル・ パイ』の『ホンキー・トンク・ウィメン』(Honky Tonk Women)のライヴ(イート・イット収録のやつです)を聴いた日の衝撃は今でも忘れる事が出来ません。

衝撃のの原因はもちろん、スティーヴ・マリオットSteve Marriott)の豪快な歌いっぷりで、ロバート・プラントRobert Plant)でもたいがい凄いと思っていた私は本当に度肝を抜かれてしまったのです。 それからというもの、毎日毎日レコード屋さんに行っては『ハンブル・パイ、ハンブル・パイ』とうわごとのようにつぶやきながら、探しまくってようやく見つけたアルバムがこの『サンダーボックス』 (Thunderbox)だったのです。

と同時に『ふつうの人は知らないから、ふつうの人の前では軽々しく口にしてはいけないアーチスト』と学んだ第一弾でもありました。学生時代に同年代の女の子とかと音楽の話になって『ハンブル・パイ』名を口にした 瞬間、何故かいや〜な雰囲気が漂うのです。

が、そんないや〜な経験から、同世代に理解が得られないという確信を持った私は、何を血迷ったか、それをアルバイトの家庭教師先のアーハなんかを聴いていた真っ白な中学生にも勧めるという暴挙に出たの でした。

悪いことにその子はなんとハンブル・パイを好きになってしまい、まだ物事の善悪もわからない年頃のその少年は、近所のレコード屋さんに行って『ハンブル・パイありませんか?』とこれまた思い切った行動に 出ます。悪いことは重なるもので、そこの店員がなんとハンブル・パイを知っていて、『そんなのあるわけないじゃん。でもなんでそんなん知ってんの?』と聞かれた少年は『家庭教師やってもらっている○○大学 の人に聞いた。』(まだ敬語も話せない年頃)と正直に答えたところ、店員は『ああ、あのスモール・フェイセスの人ね。』と納得していたというのです。

その店員は驚くべきことにハンブル・パイだけでなく私の存在まで知っていたのです!
そう・・この後、私の大学時代の呼び名は『スモール・フェイセスの人』。

これは全て実話ですが、『ハンブル・パイ』といえども、『○○大学の人』と言っただけで容疑者が特定できるくらい、田舎じゃふつうの人には知られていなかったということなんですね。

話をアルバムに戻しますが、初めて買ったその手のアルバムだけあって、いやいや本当によく聴きましたね。初めて聴いたときは、A-1のタイトル・ナンバーの出だしの合コンの乾杯みたいな安っぽい盛り上がりに、背筋が凍りついたものですが、聴いていけばいくほどにその素晴らしさがボディ・ブローのように効いてきます。

流石にラス2(この後、一枚発表して解散)のアルバムだけあって、バンドとしてのまとまりとか充実感は感じられませんが、地球最後の日とばかりに歌いまくるマリオットのヴォーカル・アクトが凄まじく、A-3、 A-4は真骨頂。A-4『アンナAnna)』はビートルズのカバーですが、本家を大きく上回る後期ハンブル・パイ(というよりマリオット)中でも最高の部類に入る内容で、サビの部分では流れ出る鼻血を拭くことすら 忘れてしまう鬼気迫る歌唱です。個人的には甲斐バンドの安奈よりも数倍好きです。

そしてマリオット以外にも目を向けてみると、B-4の『ドリフト・アウェイ(Drift Away)』が良いのです。グレッグ・ライドリーGreg Ridley)先生の渋くて説得力のある歌いっぷりが秋枯れのような実にいい味を 出していて、フォーク系リスナーにも聴いてもらいたいコリン・ヘアColin Hare)級の郷愁ただよう出来となっています。

先にも書きましたが、この後もう一枚発表して彼らは解散してしまいます。そのラスト・アルバムは1、2曲良い曲はあるものの、このサンダーボックスに比べると精彩を欠いた感じで、そういう意味では、この アルバムが彼らの最後の輝きといってもいいと思います。

(2004.11.10)