第27回
BANCO DEL MUTUO SOCCORSO
"Same Title"

BANCO DEL MUTUO SOCCORSO - "Same"
1972 ITALY RICORDI SMRL 6094 (Progressive Rock)

RARE: ★★★★

Member : Vittorio Nocenzi(key), Gianni Nocenzi(g), Marcello Todaro(b),
Pier  Luigi Calderoni(ds), Francesco Di Giacomo(vo)

Side (A)
1. In Volo
2. R.I.P.
3. Passaggio
4. Metamorffosi
Side (B)
1. Il Giardino Del Mago
2. Traccia

イタリアといえばイギリスと並ぶ良質なプログレッシヴロックの産地として有名で、ハマった事のあるプログレファンの方も結構いらっしゃるのではないかと思います。
イタリアのプログレがマニアの間で脚光を浴び始めたのは、まだプログレ専門店の○ーキーが目白駅から随分離れたところにあってぶいぶい言っていた80年代中頃だったと思います。
この頃の目白には目白駅を挟んで線対称の位置のところにユー○ァ2(こちらもプログレ専門店)も健在で、プログレのレコードコレクターの方は毎週末必ず目白で1km以上歩かなければいけないという大変な苦行を強いられていた時代でした。

イタリアのプログレは非常にオリジナリティが強い点が、他のヨーロッパの国との決定的な違いで、特にブリティッシュプログレのGENESIS、PINK FLOYD等のメジャーどころが苦手で、それよりもむしろRENAISSANCE、GRACIOUS、BEGGARS OPERA等のB級のプログレの方が好きだという方には、イタリアの音楽は大推薦です。

このBANCO DEL MUTUO SOCCORSO(以下BANCO)というグループは、一発屋の多いイタリアプログレ界のにあって珍しくアルバムを複数枚発表している息の長いグループで、イタリアンロックの王道的バンドと言っても過言ではありません。
数多いアルバムの中でも初期の3枚は特に名盤の誉れ高く、今回紹介する1stアルバムは超変形ジャケット(ジャケットというにはあまりにも強烈すぎますが..)といい、初めて耳にした者に与える衝撃の強さとその鮮度の高さといい、めったに水揚げされることのない極上の大トロのようです。

BANCOのサウンドを語る上で欠かせないのが、Francesco Di Giacomoのヴォーカルです。
Francesco Di Giacomoという人は100kgを超える巨漢の持ち主なのですが、その巨体から発せられる歌唱はプログレのヴォーカルとしては理想的な歌声で、まるで贔屓のプロ野球チームがサヨナラ勝ちしてご機嫌で風呂場で歌っているオヤジのような気持良さそうな歌いっぷりで、聴いているこちらまで気持良くなってきます。
そう書くとちょっと演歌かなんかのような気がして、『えっ?』と思うかも知れませんが、実際には思いっきりイタリア臭く、『3大テノールついに来日』とかいって教育テレビなんかで特集組んでやっている時に耳にするあのオペラチックな感覚を想像してもらえれば、と思います。

このGiacomoのバックを固める演奏陣の中では
Vittorio Nocenziピアノの演奏が実に素晴らしく、宝石をちりばめたかのような美しさが見事です。
日本でこのBANCOが紹介される時には『フィレンツェの石畳を思わせる』とかなんとか書いてあるのを目にした事がありますが、その時には、『またあ、そんな大袈裟な』と思っていたのですが、音を聴いてみたら実際にイタリアに行ったことがなくても『う〜む。なるほど。』と思わず納得してしまいました。

アルバム全体を通して、もうどの曲も素晴らしくて絶賛の嵐になってしまうのですが、一番の鮮度を誇るのはA−2でしょう。
攻撃的なピアノソロをフィーチャーした前半部分は今まで体験したことのないロックサウンドを聴くことができるのですが、この曲のエンディング部分の美しさといったらもうヨーロッパ大陸随一とも言えるもので、朝露の中で水滴に濡れたオオムラサキが羽化するシーンを見ているようなそんな生命の息吹を感じさせる感動的な内容です。
ロックファンだけではなく、音楽が好きな人全てに耳にしてもらいたい作品です。

この後の2ndアルバム『Darwin!』もFrancesco Di Giacomo の歌声が更に磨きがかかり本作同様素晴らしい作品となっています。